あの朝に引いた線。 〜FIRST INTELLIGENCEが生まれた日〜

2026.03.15

さて本日は弊社のAIエージェントサービス FIRST INTELLIGENCEの開発秘話について綴ればと思います。

あの日のことは、不思議とよく憶えています。
きっと、自分の会社が、知らないうちに、別の方向へ舵を切った日だったからだと思います。

2月1日の朝

マレーシアでJBMを終え、ベトナム経由で帰国して数日たった日

窓の外で、雪の残った地元の町がきらきらと光っていて、ひと冬ぶんの澱(おり)が、ようやく溶け始める気配がしていました。

事務所は静かでした。
誰よりも早く出てきて、湯を沸かして、コーヒーを淹れて、自分のMacを開く。
創業してから10年、この時間だけは、なんとなく崩したくないルーティンでした。

その朝、自分はMacを開いて、Claude Codeという新しい道具を、まともに触る時間を初めて確保していました。

それまで、AIには年単位で触れてはきました。ChatGPTも、Claudeも、当たり前のように仕事の横に置いていたつもりでした。
それでも、その朝のClaude Codeは、明らかに違う気配を持っていました。

世界中のエンジニアが、SNSで「これはおかしい」「世代が変わった」と騒ぎ始めていました。
自分は、その騒ぎの輪郭を、自分の手で確かめる必要がある気がしていました。

あの一行の衝撃

長く放置していた、社内のごちゃごちゃした業務スクリプトを開いて、こう書きました。
「このコードを読んで、何をしているか説明して、改善案を出してください」。

普通のAIに頼んだら、たぶん抽象的なアドバイスが返ってくる場面です。
ところがClaude Codeは、自分でファイルを横断して読み、関連するファイルを開き、必要なら依存関係を辿り、最後に「ここをこう書き換えました」とコードそのものを差し出してきました。

そのまま「テストも書いて」と頼むと、テストファイルも生まれてきました。
「動かしてみて」と頼むと、実際に実行して、出力までこちらに見せてきました。

椅子の背もたれに、思わず体重を預けたのを憶えています。

これは、質問に答える道具ではない。
これは、仕事をする側に立つ道具だ、と。
そう直感した瞬間でした。

AIは「相談する相手」から、「動いてくれる存在」に変わり始めている。
その変化の手応えを、ようやく自分の手のひらで掴んだ気がしました。

現場で見えていたもの

そこで日々目にしていたのは、サイトの古さでも、SNSの停滞でもありませんでした。
そもそも「やる人がいない」という、もっと根の深い問題でした。

創業60年の工務店の社長が、現場・営業・経理・採用を全部ひとりで回している。
個人経営の整骨院で、施術中に予約電話が鳴り続けて、結局誰も出られないまま夜が来る。
従業員4名の士業事務所で、ベテランの事務員が一人辞めた途端、業務が崩れかける。

「投稿のネタを考える時間がない」「メールの返事を書く時間がない」──そういう声は、ここ数年、ずっと、どこの現場でも同じ形で聞こえていました。

事業承継ができない。新しい人が採れない。
募集をかけても応募がない。応募があっても、定着しない。
地方の経営者は、もう何年も前から、この問題と素手で戦い続けています。

この国の中小企業が抱えている本当の課題は、ITが古いことではなく、人が足りないことだったのです。

これまでの解は届かない

弊社は長らく、Web制作・SNS運用・広告運用・ブランディング設計といった形で、クライアントを支えてきました。

もちろん、それぞれにしっかりとした意味があります。
ただ、いくらきれいな道具を渡しても、最後に動くのは「人」です。
そして、その「人」がもう、現場にいない。

2月1日の朝、Claude Codeを触りながら、自分の中で問いの形が変わっていきました。

「もっと使いやすいサイトを作る」のではなく、
「人に代わって動いてくれる存在を、お客様の会社の中に置く」。

同じお客様の課題を、これまでとはまったく別の角度から解こうとし始めた瞬間でした。

別の角度から

AIが質問に答える時代から、AIが業務に常駐する時代へ。
これは、誰かが宣言する話ではなく、世界全体で同時並行に進んでいる地殻変動だと思っています。

ただ、その変化を中小企業がそのまま受け取るのは、まだ簡単ではありません。
プロンプトを書ける人がいない。データを整える人がいない。何をAIに任せるべきかを決められる人がいない。

結局、「人がいない」という最初の課題に戻ってきてしまうのです。

都会の大企業なら、AI推進室を作り、専門人材を雇い、ベンダーと議論しながら、自前のAI戦略を進められます。
しかし、滋賀の工務店や、京都の老舗にとって、それはあまりに遠い世界です。
良い道具が世界に生まれても、それが現場まで届かない構造は、これまで何度も繰り返されてきました。

だから、あの朝に決めました。
「中小企業がそのまま使える形で、AIエージェントを丸ごとお渡しする」サービスを作ろう、と。

プロンプトもデータ整備もチューニングも、こちら側で済ませる。
お客様には、すでに自社のことを理解した「働けるAI」が届く。
そういう設計にしなければ、地方の中小企業にAIは届かない、と思いました。

サブスクリプションで月々の負担を抑え、補助金を組み合わせて初年度の費用を圧縮し、その上で「お客様の会社の中で働ける状態」にして渡す。
そこまでして、ようやく地方の現場で意味を持つサービスになる、と。

名前のない試作

2月の半ばから、社内で粗削りの試作を始めました。
名前はまだ、ありませんでした。

最初は「AI楓(かえで)」と仮称をつけて回していました。
京都・長浜の風土を映した、やわらかい和名にしたかったのです。

ところが、試作を進めるほど、「楓」では伝えきれない手応えが出てきました。
これは情緒の話ではない。
これは、経営の中枢で、知性として働くものだ──そう思い直しました。

仮名をつけては消し、つけては消し、いくつもの夜を越えました。
ようやく落ち着いた答えが、FIRST INTELLIGENCEでした。

「中小企業が最初に出会う、本物の知性」。
「貴社の中に、最初に置かれる知性」。
そのどちらの意味も、込められる名前だと思いました。

FIRST MADEの名前と並ぶように、INTELLIGENCEという言葉を据えました。
ブランドの上にもうひとつ柱を立てる気持ちで、ロゴも、配色も、提案書のテンプレートも、すべて作り直しました。

3ヶ月の景色

あれから3ヶ月半。

FIRST INTELLIGENCEは、IT導入補助金2026の対象サービスとして採択されました。
中小企業の導入時に、最大1/2の補助が活用できる仕組みも整いました。
3つのプランを用意し、利用規約とプライバシーポリシーを公開版として整え、課金の仕組みもテストモードで一通り通したところです。

最初のクライアント候補との対話も、いくつも始まっています。
「これなら、うちでも使えるかもしれない」
「採用に何百万円かける前に、まずこっちを試したい」──そう言ってもらえる瞬間が、少しずつ増えてきました。

2月1日の朝、自分の中にだけ存在していたあの直感は、紙の上の設計図になり、Webページになり、申請書になり、いまは少しずつ、人と人の会話の中に染み出し始めています。

2月の朝から伸びた線

「人がいない」という社会課題は、一企業の努力で消えるものではありません。
それでも、AIという道具が、その課題に新しい角度を与えてくれる時代に、自分たちはちょうど立ち会っています。

Web制作も、SNS運用も、広告運用も、これからも必要です。
でも、その「届けたあとに、動かす人がいない」という最後の一マスを、AIエージェントが埋められるなら、これは中小企業の景色を変える話になると思っています。

FIRST INTELLIGENCEは、まだ始まったばかりのサービスです。
これから、地方のクライアントと一緒に使い込みながら、形を整えていく時期に入ります。
うまくいく日もあれば、つまずく日もあるはずです。それでも、進む方向に迷いはありません。

あの朝に引いた線は、まだ、ずっと先まで続いています。
自分たちはその線の上を、もうしばらく、まっすぐ歩いていこうと思います。

この記事を書いた人

山中貴司
山中貴司代表取締役
株式会社FIRST MADE代表取締役。
Webブランディング10年を経て、2026年に中小企業向けAIエージェント事業「FIRST INTELLIGENCE」を立ち上げ。
自社でも15名のAIエージェントを日々の業務に運用し、実体験に基づくAI導入支援を行っています。
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