チャットの時代は終わった。エージェントの時代が、始まっている。

2026.02.28

BoxのCEO、Aaron Levieが、銀行、メディア、小売、ヘルスケア、コンサルティングなど、さまざまな業界のAIリーダー数十人と面談した結果をまとめた投稿が話題になっていました。

エンタープライズAIの「現場の温度感」が生々しく伝わってくる内容だったので、自分なりに咀嚼して書いてみます。

チャットの時代は、終わった

Levieの最大のメッセージは明快です。

AIの「チャット時代」は終わり、「エージェント時代」に入った。

人間がチャットボットに質問して答えをもらうフェーズから、AIエージェントが自律的にツールを使い、データを処理し、実際の業務を遂行するフェーズへ。ステージが一つ上がった。

自分もまさにこれを体感しています。自分たちのサービスFIRST INTELLIGENCEを開発する中で、チャットボットとエージェントの差は肌で感じてきました。チャットは「聞かれたら答える」。エージェントは「指示されたら、自分で考えて、動く」。この違いは、使った人間にしかわからない。

実験から、本番へ

Levieの話で印象的だったのは、企業がAIにシフトさせているという指摘です。

「とりあえずAIを試してみよう」という広い実験フェーズから、特定のワークフローを狙い撃ちで自動化するフェーズに移っている。

これは非常にリアルな話です。自分の周りでも、2024年は「ChatGPTすごいね」で終わっていた企業が、2025年後半から「このプロセスを、AIに任せたい」と具体的な相談を持ちかけてくるようになった。抽象的な興味から、具体的な実装へ。その転換点は、もう過ぎています。

しかも、エージェントの活用範囲はバックオフィス(経理や事務)だけにとどまらない。

営業支援、カスタマーオンボーディング、データ分析。ビジネスのあらゆる領域に広がり始めている。

「人を減らす」が目的ではない

ここが、自分が最も共感したポイントです。

Levieが面談した企業のAIリーダーたちの最大の関心事は、「人を減らすこと」ではなかった。彼らが追求しているのは、顧客により良い体験を届けること。データからより深いインサイトを得ること。ROIの高い業務を加速すること。

AIを「リストラの道具」として見ている経営者と、「ビジネスを加速させるエンジン」として見ている経営者。この認識の差が、成果の差にそのまま出てくる。自分は後者の立場を取りたいし、クライアントにもそう伝えています。

データが整理されていない問題

一方で、エージェント導入の最大のボトルネックも見えてきています。データガバナンスです。

チャットボットの時代は、人間が質問を選んでいたので、データが多少散らかっていてもなんとかなりました。しかしエージェントは違う。自律的にデータを探しに行く。データが整理されていなければ、エージェントは正しく動けない。

長年にわたるデータの分散管理、部署ごとにバラバラなフォーマット、アクセス権限の不整合。これらが、エージェント時代の最大の壁になっている。逆に言えば、ここを先に整備できた企業が、圧倒的な優位を持つことになります。

さらに、エージェントのアクセス権限管理という新しい課題も浮上しています。何十体ものエージェントが、それぞれ異なるデータにアクセスする世界。人間のID管理とは根本的に異なる仕組みが必要になる。

AIのコストが、桁違いに変わる

もう一つ見逃せないのが、コストの問題です。

チャットボット時代は、人間が質問したときだけトークンを消費していた。だからコストは限定的だった。しかしエージェントは24時間自律的に動く。トークン消費量が桁違いに増える。

Levieはこれを「tokenmaxxing」と表現していました。AIの利用コストがオペレーションコストとして急増し、従来のIT予算の枠を超えてくる可能性がある。これは企業の財務構造そのものに影響する話です。

自分たちがFIRST INTELLIGENCEの料金設計で最も時間をかけたのも、まさにこのポイントでした。エージェントが常時稼働する世界でのコスト構造をどう設計するか。クライアントにとって持続可能で、かつ自分たちも事業として成立する形を見つけること。ここの設計が甘いサービスは、早晩立ち行かなくなると考えています。

一つのプラットフォームでは完結しない

Levieの指摘でもう一つ重要なのは、単一のプラットフォームが勝者になるわけではないという点です。

どの企業も、複数のAIシステムを併用している。OpenAIとAnthropicを使い分け、社内のカスタムモデルも動かし、それぞれの強みを組み合わせている。勝敗を分けるのは特定のモデルの選択ではなく、相互運用性。異なるシステムをどう連携させるかが鍵になる。

これは自分がサービスを設計する上でも強く意識している点です。特定のAIモデルに依存するのではなく、最適なモデルを柔軟に使い分けられる設計にする。技術は進化し続けるから、アーキテクチャは柔軟でなければならない。

それでも、人間の役割はなくならない

最後に、Levieが触れていたチェンジマネジメントの話。

エージェントが動く世界でも、人間との協業は前提です。そして、信頼は段階的にしか築けない。いきなり全業務をエージェントに任せるのではなく、小さな範囲から始めて、結果を確認しながら、徐々に任せる領域を広げていく。

自分はこの「段階的な信頼構築」というプロセスを、クライアントとの仕事の中で毎日実感しています。最初は半信半疑だった経営者が、一つ目の業務でエージェントの成果を見て、「次はこれも任せたい」と言ってくれる。その積み重ねが、組織にAIを根づかせていく。

テクノロジーの話のように聞こえるかもしれませんが、結局これは人の話です。人がAIを信頼するまでのプロセス。そこに寄り添えるかどうかが、AIサービスの本質的な価値を決める。

Levieの投稿全体を通して自分が感じたのは、エンタープライズAIは「使うかどうか」のフェーズを完全に通り過ぎた、ということです。もう「使う」のは前提。問題は「どう使いこなすか」に移っている。

自分たちは、その「どう使いこなすか」の部分を、一緒に考え、一緒に動く存在でありたいと思っています。

この記事を書いた人

山中貴司
山中貴司代表取締役
株式会社FIRST MADE代表取締役。
Webブランディング10年を経て、2026年に中小企業向けAIエージェント事業「FIRST INTELLIGENCE」を立ち上げ。
自社でも15名のAIエージェントを日々の業務に運用し、実体験に基づくAI導入支援を行っています。
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