久しぶりに一冊の本と、静かに向き合いました。
安宅和人さんの『イシューからはじめよ』。
この本を開いた瞬間から、胸の奥に灯るものがありました。
「問題を解く前に、問題を見極めるべきだ」
このシンプルでありながら、あまりにも本質的なメッセージは、
これまで自分が歩んできたクリエイティブの旅路に、静かに問いを投げかけてきます。
デザインも、文章も、コンセプトづくりも、
形を作る前に、必ず「問い」があったはずでした。
けれど、忙しさにかまけ、時に「作ることそのもの」が目的になってしまう。
そんな自分を、そっと見透かされたような気がしました。
「何を解くべきか」を見極めるという勇気
安宅さんが説く、「イシューを見極める」ということ。
それは、簡単なことではありません。
むしろ、私たちクリエイターにとっては、一番難しい作業かもしれないと感じます。
クライアントの要望、マーケットのトレンド、目の前に積み上がるタスク。
それらに流されることなく、本当に向き合うべき課題を見つめる。
これは、時に恐ろしく孤独な作業でもあります。
デザインをする時も、文章を書く時も、
「この表現で、本当に問いに答えているのか」
「今取り組んでいるこの案件は、そもそも価値のあるイシューなのか」
そんな自問自答を、何度も何度も繰り返さなくてはなりません。
そして時には、「これは取り組むべきではない」と判断する勇気も必要になるのです。
それは決して、逃げることではありません。
本当に価値のあるものに、限りある時間とエネルギーを注ぐための、覚悟なのだと学びました。
本当に向き合うべきものは、目に見えにくい
旅をしながら、世界中で仕事をしてきた中で、
「表面的な情報に惑わされる怖さ」を何度も痛感してきました。
たとえば、あるブランドリニューアル案件。
最初に提示された課題は、「ロゴを新しくしたい」というものでした。
しかし、何度もヒアリングを重ねるうちに見えてきたのは、
ロゴ自体ではなく、ブランドの存在意義そのものに対する迷いでした。
ロゴを刷新することは、単なる手段でしかありません。
本当に解くべきイシューは、「いま、このブランドが世の中に対してどんな意味を持つべきか」という問いだったのです。
安宅さんの言葉を借りれば、
「解くべきではない問題に時間をかけるのは、人生の無駄遣い」
その一言が、今なら痛いほど胸に響きます。
イシューに向き合うことで、生まれたイノベーション
本質的なイシューに向き合った時、クリエイティブは単なる「作業」から、「創造」へと変わります。
たとえば、以前手がけた旅系メディアの立ち上げプロジェクト。
最初は「情報サイトを作る」という依頼でしたが、本当に解くべき問いは、「なぜ人は旅をするのか」という根源的なものでした。
そこから導き出したコンセプトは、「旅は、日常を取り戻すためのもの」というテーマ。
単なる観光情報ではなく、旅を通して自分自身と再び出会うようなコンテンツを発信しよう、という方向に舵を切ったのです。
結果、サイトは多くの読者の心を掴み、数字以上の熱量を持ったコミュニティを育てることができました。
これは、安宅さんが言う「イシューに取り組む」ことが生み出す力なのだと、今では確信しています。
クリエイティブこそ、イシューを問い続けなければならない
「正しい問いを立てること」
これは、デザインでも、ライティングでも、どんな表現活動でも、核となるべき姿勢だと改めて感じます。
「かっこいいものを作る」
「きれいなものを作る」
それ自体はゴールではありません。
誰に、どんな価値を、どんなふうに届けるのか。
その根っこの部分を見誤れば、どんなに手間暇かけても、成果にはつながらないのです。
クリエイターという存在は、常に「問いかける者」であるべきだ。
安宅さんの本は、そんな静かな覚悟を、自分にもう一度思い出させてくれました。
まとめ:旅をしながら働く今だからこそ
今、世界をオフィスにして生きる中で、
情報や刺激は、もう溢れるほど手に入ります。
けれど、そこから本当に「価値ある問い」を拾い上げるには、
膨大な情報を削ぎ落とし、静かに本質を見極める目が必要です。
海辺の小さなカフェで。
砂漠を越えた町の屋台で。
どこにいても、
「自分はいま、何を本当に解こうとしているのか」
この問いを胸に、仕事を続けていきたいと思います。
そして、イシューに真正面から向き合うことが、
世界と本当につながるための、唯一の道だと信じています。
この記事を書いた人

- 代表取締役
- 1985.11.09 滋賀⇄東京⇄滋賀
最近気になるのはChatGPT OpenAi関連… 生成Aiにはどう頑張っても勝てないのでもう考えることを辞めましたw
▪趣味:旅行 ギター 読書 キャンプ 釣りとか…
9年前に始めたBLOGも750記事を超えました。
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