火のそばで、三泊四日

2026.06.12

キャンプに出かけるのは、ずいぶん久しぶりでした。
日々のなかに、小さな逃げ場をいくつも持っておくような感覚です。
短く離れて、また戻る。
その小さな出入りの繰り返しが、自分なりの呼吸の整え方です。
けれど今回は、三泊四日。
腰を据えて、琵琶湖のほとりに、自分の時間をまるごと置いてきました。

久しぶりの、湖畔で

着いてまず、冷たいものをひとつ。
水の匂いと、風の音と。
それだけで、肩のあたりが少しずつほどけていきます。
日常で固くなっていたものが、湖の前ではうまく力を抜けるようでした。

琵琶湖の湖畔で乾杯

テントを張り、椅子を置き、ランタンを吊るす。
ひとつずつ手を動かしていくと、頭のなかも少しずつ片づいていきます。
焚き火に火を入れれば、ここがしばらくの自分の居場所になります。

設営を終えた湖畔のテント

急ぐ理由が、どこにもない。
そのことを、頭よりも先に、体のほうが思い出していくようでした。

焚き火とランタン

久しぶりの湖畔は、ただ座っているだけで満ちていきます。

火と、向き合う

今回いちばん楽しみにしていたのは、料理でした。
持ち込んだスパイスを小瓶ごと並べて、肉に下味をつけていきます。
何を使うかは、その日の気分と、火の機嫌で決めるくらいがちょうどいい。

スパイスで下味をつけた肉

焚き火の上に鉄板を据えたら、あとは、ただ焼くだけ。
家のキッチンなら数分で済む工程に、ここでは一時間かけても惜しくありません。
便利からいちばん遠いところに、わざわざ自分を置きにきたのだと思います。

焚き火の鉄板で肉を焼く

火加減を見て、煙をよけて、また腰を下ろす。
手間がかかること自体が、ごちそうなのだと思います。

焼きあがるのを待つあいだは、テントに寝転んで、ただ外を眺めています。
足の先に湖がある、それだけの景色がぜいたくです。

テントから望む夕方の湖

同じ眺めを、飽きもせず何枚も撮ってしまいました。
木陰から見渡すと、ここが数日だけの自分の家になったのだと分かります。

木陰から見たキャンプサイト

効率を手放すための時間も、人にはきっと要るのでしょう。

夕暮れを、ひと口

日が傾くと、空が一日でいちばん饒舌になります。
その下で、バンズを炙り、ソーセージを焼いていきます。
何度やっても、この時間だけは少しそわそわします。

夕暮れの焚き火

味つけの相棒は、いくつかのスパイスと、アイスランドでの旅先で見つけたホットドックソース。
並べてみるだけで、今日は何をのせようかと、心が少し動きます。

スパイスとマスタード

のせるものは、そのときの気分にまかせます。
ケチャップも、マヨネーズも、遠慮なく。

バンズとソーセージを炙る

湖を眺めながらかじるホットドッグは、不思議とどんな名店にも負けません。
味の半分はきっと、目の前の景色でできているのです。

完成したホットドッグ

夕暮れは、いつもより少しだけ長く感じました。

夜が、満ちる

日が落ちきると、世界がすっと静かになります。
対岸の灯りが、水面に細く伸びていきます。
昼間あれほど近かったはずの予定が、急に遠くなっていく時間です。

黄昏の焚き火と湖

火を見ていると、頭の中の予定表が、少しずつ薄くなっていきます。
明日やるべきことよりも、今、目の前で爆ぜている炎のほうが大事に思える。
火には、人の考えごとをゆっくりほどく力があるのだと思います。

灯りのともる夜のテント

そういう時間を、自分はずっとどこかで探していた気がします。

朝の、ごちそう

朝は、残りものをまとめて一枚の鉄板の上へ。
ごはんとキムチを炒めて、真ん中に卵をひとつ落とします。
段取りも見栄えもないけれど、湯気の立つそれが、朝にはいちばん効きます。

朝食のキムチチャーハンと卵

黄身を崩して、ぜんぶを混ぜてしまう瞬間が、いちばん好きです。
誰のためでもない、自分のためだけの一皿。

卵をのせたキムチチャーハン

湖を見ながらの一杯は、後ろめたさより、解放感のほうが勝ちました。
誰に見せるでもない朝食が、こんなにもおいしい。

昼の琵琶湖

慌ただしく過ぎていく普段の朝が、少しだけもったいなく思えてきます。

何もしない、という贅沢

昼のあいだは、ほとんど何もしませんでした。
湖を眺め、うとうとして、目が覚めたら、また眺める。
時計を見る回数が、一日ごとに減っていくのが分かりました。

夕暮れのキャンプサイト

夕方になると、ランタンを灯して、小さな画面をぼんやり眺めます。
誰かのキャンプの映像を見ながら、自分もまた火を眺めている。

夜は鍋にうどんを放り込んで、湯気の向こうで、その続きを眺めます。
予定を立てない一日が、これほど豊かだとは思っていませんでした。

夜の鍋焼きうどん

何もしない時間を持てるかどうかは、たぶん、仕事の質にも関わっている。
そんなことを、湯気越しにぼんやりと考えていました。

頁を、めくる午後

三日目は、ずいぶん長く本を読んでいました。
家では最後までたどり着けなかった一冊を、湖の音だけを連れて開きます。

湖畔で開く一冊

読む速さではなく、邪魔をするものの数が違うのだと思います。
ページに沈んでいくのを、誰にも邪魔されない時間。

湖畔で読書

お腹が空けば、また火を起こして、ホットドッグを焼く。
同じ料理でも、つくるたびに少しずつ違う顔になります。

フライドオニオンをのせたホットドッグ

夕暮れには、湖の上に薄く靄がかかって。
ページから顔を上げるたび、景色が静かに色を変えていました。

黄昏に本を読む

日が落ちる前に、小さな火で湯を沸かしておきます。
温かいものが一杯あれば、夜は静かに更けていきます。

小さな火で湯を沸かす

時間を贅沢に使うとは、こういうことかもしれません。

月と、別れの朝

最後の夜は、大きな月が出ていました。
水面にまっすぐ伸びた光の道を、しばらく黙って眺めていました。
こういう景色は、写真よりも、その場に座っていた時間ごと覚えています。

湖に浮かぶ月

翌朝はまだ暗いうちに目が覚めて、サンドイッチとスープで、静かに締めくくります。
三泊四日は、いつもより少しだけ長い。

最後の朝のサンドイッチとスープ

その分だけ、日常から遠くまで歩けたような気がします。
また二週間ほどしたら、自分はきっと火のそばに戻ってくるのでしょう。
今度は、ここで覚えた静けさを、少しだけ持ち帰って。

この記事を書いた人

山中貴司
山中貴司代表取締役
株式会社FIRST MADE代表取締役。
Webブランディング10年を経て、2026年に中小企業向けAIエージェント事業「FIRST INTELLIGENCE」を立ち上げ。
自社でも15名のAIエージェントを日々の業務に運用し、実体験に基づくAI導入支援を行っています。
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