チュニジア・チュニス。地中海を隔ててヨーロッパを見据えるこの地での滞在は、自分の感性を根底から揺さぶるような、鮮烈な色彩と香りに満ちたものでした。

JCI世界大会という大きな使命を果たす傍ら、自分はこの土地が持つ「生きた美学」に触れるため、チュニスの街へと深く潜り込みました。

ヨーロッパの洗練とは異なる、どこか懐かしく、けれど圧倒的にエキゾチックな情景。

そこには、40歳を迎えた自分の新しい門出を祝うような、最高の景色と出会いが待っていました。

チュニジア編の締めくくりとして、自分がファインダー越しに、そして五感で切り取った「至福の断片」を綴ります。
聖なる青と白の迷宮。――シディ・ブ・サイド、昼と夜の二重奏
チュニジア観光の白眉といえば、やはり「シディ・ブ・サイド(Sidi Bou Said)」です。自分はこの美しすぎる街を、どうしても違う角度から見たくて、昼と夜の二度訪れることにしました。

一回目に訪れた昼のシディ・ブ・サイドは、地中海の強い陽光を浴びて、すべての建物が白と青の二色で鮮やかに発光しているようでした。

白壁に映える鮮やかなピンクのブーゲンビリアの花が、まるで計算されたデザインのように街を彩っています。 そして、複雑なアラベスク模様が施された「チュニジアン・ブルー」の扉や窓枠。

一歩足を踏み入れれば、そこには日常を忘れさせるような静謐で美しい世界が広がっています。お土産屋さんが並ぶ通りには、中東や北アフリカ特有のスパイスや革製品の香りが漂い、自分の嗅覚を心地よく刺激しました。

しかし、二回目に訪れた夜のシディ・ブ・サイドは、また全く別の顔を見せてくれました。

陽が落ち、街灯が白壁をオレンジ色に染め始めると、昼間の喧騒は影を潜め、代わりに静謐でロマンチックな雰囲気が街を包み込みます。

夜景を見下ろせる近くのカフェに入り、漆黒の地中海と、眼下に広がる街の灯りを眺めながら過ごした時間は、まさに至福の一言でした。
夜の静寂の中に浮かび上がる青と白の情理は、昼間よりもさらに深く、自分の魂に語りかけてくるようでした。
混沌の中に眠る美意識。――中東の残り香を感じる、チュニスのマーケット(スーク)
チュニスの旧市街(メディナ)に足を踏み入れると、そこには自分を圧倒するような、カオスと活気に満ちた「マーケット(スーク)」が広がっていました。

狭い路地の両側に、所狭しと並ぶ屋台や商店。その光景は、以前訪れたトルコのマーケットを彷彿とさせるもので、どこか懐かしく、それでいて新しい発見に満ちています。

立ち並ぶ店先からは、革を加工する匂い、スパイスが弾ける香り、そして地元の人々が飲むお茶の匂いが混ざり合い、濃厚な「中東の匂い」となって五感を揺さぶります。

通り抜ける人々、荷物を運ぶ荷台、そして店主たちの威勢の良い声。そこには、効率化とは無縁の、けれど確かな人間の「熱量」が存在していました。

ふと足を止めると、緻密な彫金が施されたランプや、鮮やかな色彩の陶器が、薄暗い路地の中で宝石のように光を放っています。かつての駅のような場所(STATION REPUBLIQUE)を通り過ぎ、夜の喧騒へと消えていく人々の群れ。

その一つひとつの断片が、チュニジアという国が持つ多様で力強い文化の地層を物語っていました。また、路地裏の小さなカフェでは、地元の人々が静かに会話を楽しみ、タイル作りの壁面が独特の風情を醸し出していました。

タイルと青空のコントラスト。屋上庭園で出会った「不変の美」
このマーケット巡りで、自分を最も感動させたのは、ある一角から登った「マーケットの屋上」でした。 迷路のような階段を抜けると、そこには視界が開けた開放的な空間が広がっていました。驚いたのは、その空間を埋め尽くす見事なタイル細工です。

赤、黄、青、緑……。複雑な幾何学模様や植物文様が描かれたタイルが、壁一面、あるいはアーチの隅々にまで敷き詰められています。

場所によってはお茶ができるカフェスペースもあり、そこから見上げる抜けるようなアフリカの青空と、色彩豊かなタイルのコントラストは、目を見張るほどの美しさでした。

伝統的な職人技が息づくタイルの質感。それは、何十年、何百年という時間を経てもなお、色褪せることのない「本物」の輝きを持っていました。

タイルの横では、伝統的な織物(ラグ)を黙々と織る女性の姿があり、その指先の動き一つひとつが、文化を継承していくという行為の尊さを無言で示しているようでした。

スパイスが紡ぐ伝統。チキンクスクスの深淵とアフリカの月
チュニジアの食文化においても、自分は忘れられない味に出会いました。その筆頭が、国民食である「クスクス」です。

今回いただいたのは、じっくりと煮込まれた大きなチキンと、ホクホクのジャガイモ、そして青唐辛子が豪快に乗った一皿。

世界最小のパスタと言われるクスクスに、素材の旨味と複数のスパイスが溶け込んだ濃厚なソースが完璧に染み込んでいます。

ピリッとした辛みの中に野菜の甘みが感じられ、ボリュームがありながらも不思議と次の一口が止まりません。
そして、食事を終えて見上げた夜空。

そこには、驚くほど大きく、そして清らかな「アフリカの月」が浮かんでいました。
この地で迎えたジャパンナイトの熱狂、そして仲間たちに胴上げされ、宙に舞った40歳の誕生日の記憶。それらすべてを包み込むような静かな月光の下で、自分はこの旅の本当の意味を噛み締めていました。
「自分」を再定義した、チュニジアからの帰還
メキシコの琥珀色の光から始まり、パリの偏執的な美意識、ミラノの洗練、バチカンの永遠、ローマの真実。そして最後に、この北アフリカ・チュニジアの情熱。

世界中を巡り、アーカイブの価値を知り、職人の執念に触れ、そして国境を越えた「個」としての絆を確信した。

「さあ、帰ろう。」
最高の記憶と、鞄に詰め込んだ数々の戦利品、そして何より磨き上げられた新しい感性と共に、自分はいよいよ日本への帰国の途につきます。

これまで旅を共にしてくれた仲間に、そしてこの景色を共有してくれた皆さんに、心からの感謝を込めて。

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