アイスランド一周記 ─虹がかかった巨大な滝たちと、打ち上げられたダイヤモンド。

2026.05.24

レイキャビクとゴールデンサークルをめぐった一日目を終え、いよいよアイスランドの南海岸へと走り出しました。
ここからが、反時計回りの一周の本番です。

巨大な滝、黒い砂浜、ビーチに打ち付けられる氷河の塊。

南海岸は、アイスランドのなかでも特に見どころが密集している区間で、車を少し走らせるたびに、まったく違う絶景が次から次へと現れます。

ハンドルを握る手にも、自然と力がこもりました。

そして今回の旅は、振り返ってみれば、まさに奇跡の連続でした。
大自然のスケールに圧倒され、思いがけない人の優しさに救われ、初めての味に驚かされる。その一つひとつを、順を追って書いていきます。

水のカーテンの裏側へ

まず向かったのは、セリャラントスフォスという滝でした。

高さ六十メートルの崖から、一本の水の柱が落ちてくる。
この滝のすごいところは、なんと裏側まで回り込めること。

滝の裏の岩棚を歩くと、目の前を分厚い水のカーテンが轟音とともに流れ落ち、その向こうに、アイスランドの広大な平原が透けて見えるのです。

裏側に回り込めることで知られるセリャラントスフォスの滝と背後に広がる平原

当然、あたりは水しぶきでびしょ濡れになります。
まわりの人たちは、みんなゴアテックスのような最新の高性能レインウェアで、完全装備。

セリャラントスフォスの裏側から水のカーテン越しに外の光を見る

そんななか、自分ひとりだけは、バブアーのオイルドコットンで挑みました。古くから使われてきた、蝋を引いた綿のジャケットです。

正直、少し不安もありました。けれど結果は、まったく問題なし。たっぷりと水を浴びても、オイルドコットンはしっかりと弾いてくれて、最後まで快適に歩けたのです。

最新の素材(GORE-TEX等)も素晴らしいけれど、長く受け継がれてきた道具には、それなりの理由があるのだと、あらためて実感しました。

この日は天気もよく、虹がかかってました。

轟音に、打たれにいく

次に向かったのは、スコゥガフォス。
幅二十五メートル、落差六十メートルの、堂々たる一枚の滝です。滝つぼに近づくほど、地面が震え、霧のような水しぶきが全身を包みます。

晴れた日には、その霧に虹がかかることでも知られています。

この日は3重にかかった虹を見ることができました。

滝の脇には、てっぺんまで続く長い階段があります。
息を切らして登りきると、眼下には、緑の谷と、うねるように流れる川。

スコゥガフォス脇の階段を登った高台から見下ろす緑の谷と川

アイスランドの大地が、どこまでも続いていました。滝は下から見上げても、上から見下ろしても、まるで違う顔を見せてくれます。

黒い砂と、六角形の岩

海沿いに出ると、砂浜が真っ黒でした。レイニスフィヤラ。

きれいに並んだ六角形の柱状節理を間近で見る
火山の島ならではの、黒い溶岩が砕けてできた砂の浜です。

沖には、トロールが船を引いていて夜明けに石になった、という伝説の残る尖った奇岩がそびえ、荒々しい白波が絶え間なく打ち寄せていました。

レイニスフィヤラの海岸にそびえる六角形の柱状節理の玄武岩の崖

浜の奥には、見事な六角形の柱が、びっしりと並んだ崖がありました。
溶岩がゆっくりと冷え固まるときにできる、柱状節理という造形です。

まるで巨大なパイプオルガンのよう。レイキャビクで見たあの大きな教会も、この自然の柱を模してつくられたのだと、ここでようやく腑に落ちました。

大地が刻んだ、迷路

さらに東へ進むと、大地そのものが裂けたような峡谷が現れました。フィヤズラゥルグリューフール。

苔むした断崖のあいだを蛇行して流れるフィヤズラゥルグリューフール峡谷

百メートル近い苔むした断崖のあいだを、川が蛇行しながら刻んでいく。

二百万年もの歳月をかけて、水が少しずつ削り出した造形だそうです。

 

人間の一生など、ほんの一瞬なのだと、こういう景色の前では思い知らされます。

黒い渚の、宝石

そしてこの日のクライマックスが、ダイヤモンドビーチでした。
近くのヨークルスアゥルロゥンという氷河湖から流れ出た氷のかけらが、波に磨かれて、黒い砂浜に打ち上げられる。

ダイヤモンドビーチの氷と打ち寄せる白い波

透き通った氷が、まるで宝石のように黒い砂の上で輝いているのです。

両手で抱えてみると、何百年も前に降った雪が、いまこうして自分の手のなかにある。その事実に、思わず笑みがこぼれました。

大きいものは人の頭ほど、小さいものは氷砂糖のよう。
一つとして同じ形はなく、波が寄せるたびに、きらきらと光を変えていきます。いつまで眺めていても、飽きることがありませんでした。

ダイヤモンドビーチの黒い砂浜で透き通った氷河のかけらを抱える筆者の笑顔
この氷のふるさとは、ヨーロッパ最大の氷河ヴァトナヨークトル。気の遠くなるような時間をかけて圧し固められた雪が、ゆっくりと海へ下り、最後にこの渚で溶けて消えていく。美しいだけでなく、どこか切ない景色でもありました。

波打ち際に散らばる大小さまざまな透明な氷のかけら

ヨーグルトではない、スキル

旅のあいだ、すっかりはまってしまった食べものがあります。スキルです。
見た目も食感もヨーグルトそっくりなのですが、実は分類上はクリームチーズの仲間なのだそうです。アイスランドで千年以上も作られてきた、伝統的な乳製品。さっぱりとしているのに濃厚で、たんぱく質もたっぷり。

アイスランドの伝統的な乳製品『スキル(ísey SKYR)』のカップ

ブルーベリーやラズベリーの入ったものを、車のなかでスプーンですくって頬張る。

これが、長い運転の合間の、何よりの楽しみになりました。本当に美味しくて、毎日のように買い足していたほどです。

鉄板を囲む、夜

夜は、その日たどり着いたキャンプ場で、自炊をします。
日本から持ち込んだ大鍋にパスタを山ほど茹で、例の鉄板で肉を焼く。

キャンプ場の屋根の下、携帯コンロの大鍋でパスタを茹でる様子と仲間たち

屋根のある炊事場を借りて作る食事は、何ものにも代えがたい時間でした。

皿に盛られたパスタとオリーブオイル・窓の外にはキャンプ場の景色
日本から持参した鉄板の上でこんがりと焼けたラム肉のステーキ

シンプルなオリーブオイルのパスタと、こんがり焼けたラム肉。
一日じゅう絶景を歩きまわって、くたくたになった体に、この素朴な食事がどれほど沁みたことか。

豪華な料理ではないけれど、作りあげた一皿には、何ものにも代えがたい満足がありました。

パンク、そして奇跡

けれど、旅はいいことばかりではありません。

未舗装の砂利道を走っていると、突然レンタカーのタイヤがパンクしてしまいました。あたりは見渡すかぎりの荒野で、街もガソリンスタンドも、どこにも見当たりません。

砂利道で完全に空気の抜けた車のタイヤ・パンクした状態

レンタカー会社にコンタクトを取りましたが、「ロードサービスはアイスランドでは保険適用外」。とのこと。実費で呼ぶとなると僻地なので日本円で20万ほどかかると言われ、来てくれるまでにも半日程度かかると言われ、絶望の淵に立たされました。

今回ばかりは正直、もうダメかもしれない、と流石に諦めかけました。

ところが、すぐ近くに、小さなキャンプ場があったのです。

切り立った緑の崖の下の砂利道に停まる旅のレンタカー

藁をもつかむ思いで飛び込むと、そこにいた地元の方が、それはもう親身になって助けてくれました。

作業小屋にタイヤを運び込み、専用の道具を使って、手際よく直してくれたのです。

近くのキャンプ場の作業小屋でタイヤ修理を手伝ってくれた白髪の地元の男性

壁にはアイスランドの国旗。トラクターや農機具に囲まれた、その土地で生きる人の工房でした。

アイスランドの国旗が掲げられた地元の農家の作業小屋の内部

見ず知らずの、言葉もろくに通じない旅人に、ここまでしてくれる。
その優しさが、本当に、心の底から嬉しかった。お礼の言葉だけでは足りないくらい、感謝しています。

パンクという最悪の出来事の、すぐ隣にキャンプ場があり、親切な人がいた。

これを奇跡と呼ばずに、何と呼べばいいのか。

地元の男性と一緒に車のタイヤを交換する筆者・砂利道の路肩で
旅の本当の豊かさは、絶景の数と、こういう人との出会いの中にこそあるのだと、しみじみ思いました。

親切と、絶景と

直してもらったタイヤで、走り出します。
その日のキャンプ場に車を停め、星も出ない明るい夜のなかで、今日一日を振り返る。

キャンピングカーやテントが点在するアイスランドのキャンプ場の夕景

巨大な滝、黒い砂、宝石のような氷、足元のつくし、そして、見知らぬ人の優しさ。あまりにも多くのものを、この一日で受け取りました。

どこまでも続く黒い溶岩台地と一本の道

南海岸は、まだ序章にすぎません。
この先、車はいよいよ人の少ない東の果てへと向かい、果てしない溶岩台地と、氷河の懐へと分け入っていきます。


奇跡の連続だったアイスランド一周記、第三回へと続きます。

 

 

この記事を書いた人

山中貴司
山中貴司代表取締役
株式会社FIRST MADE代表取締役。
Webブランディング10年を経て、2026年に中小企業向けAIエージェント事業「FIRST INTELLIGENCE」を立ち上げ。
自社でも15名のAIエージェントを日々の業務に運用し、実体験に基づくAI導入支援を行っています。
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