サンディエゴの街が静かに影を落とし始めるころ、車のヘッドライトが南へと照らしました。
目指すは、メキシコ・バハカリフォルニア州の都市、ティファナ。
初めての陸路での国境越え。
街の風景が遠ざかるにつれて、風の匂い、建物の影、人の目線すらも少しずつ変わっていくのを、身体が静かに感じ取り始めていました。
イミグレーションを越えたその瞬間。国境線のこちら側と向こう側で、空気の質がこんなにも違うのかと驚きました。
夜が訪れる前の、きれいなオレンジが残る空の下、弾丸ティファナの旅が幕を開けました。
屋台の香りと、街に響く音楽
ティファナに到着してまず向かったのは、街角に並ぶタコスの屋台。
煙とスパイスの香りがまじった空気に誘われ、立ち止まり、一皿を注文。
ジュウジュウと音を立てて焼かれる肉、刻まれるパクチー、パチンと絞られるライムの音。その全てが“旅の音”に聞こえました。
口に含むと、香ばしさとピリッとした辛さが一気に広がる。
これぞ本場の味、という一品でした。
その頃、街のあちこちで小さなメリーゴーランドが回り始めました。
夜が訪れ、ティファナはまるでどこかの広場のような、華やかでどこか切ない光で満たされていきました。
テカテと赤と青の制服、そして突然の静寂
そんなティファナの空気に酔いながら、自分もつい気が緩んでいました。
手にしていたのは、メキシコのローカルビール「Tecate(テカテ)」。
キンと冷えた缶から伝わる鉄の感触と、わずかな塩気が混じったビールの味が、旅の身体に沁み込んでいくようでした。
そのとき——
目の前に、5人の警察官が立ちはだかりました。制服の赤と青がストロボのようにフラッシュし、心臓が一気に跳ね上がります。
「ビールを今すぐ捨てろ!!!」
そう言われ、驚きながらもすぐに応じました。
ティファナでは、公の場での飲酒が禁止されているとのこと。まったく知らなかった…。それでも、彼らはそれ以上は追及せず、警告だけでその場を立ち去ってくれました。
正直、とても怖かった。
けれど、今では旅を語るときに必ず思い出す“エピソードのひとつ”になっています。
国境に滞留する時間——イミグレーションとパフォーマンス
帰り道は思った以上に長く、国境越えの車列は1時間半にわたって停滞していました。
動かぬ車の間をすり抜けるように、先住民の衣装をまとったパフォーマーたちが笛を吹き、太鼓を叩き、ダンスを披露しながらチップを求めてきます。
他にも、お菓子、雑貨、ペンダント…あらゆるものを手にした人たちが車の窓をノックしてきました。
そのたびに、アメリカとの違いを突きつけられるような現実。
華やかで、雑多で、たくましい。ティファナという街の“生きているエネルギー”を、最も強く感じたのは、もしかするとこの国境待ちの時間だったかもしれません。
そして、ようやくアメリカへと再入国。
車の窓を開けると、どこか乾いた静けさと、整然とした空気が迎えてくれました。
ガスランプの灯に誘われて、旅の余韻に浸る
アメリカに戻って最初に向かったのは、サンディエゴの「ガスランプ・クォーター」。
この場所は、ヨーロッパの旧市街のような雰囲気を持ちながら、しっかりとアメリカらしさを残した洒落たエリアです。
バーのカウンターに腰掛けて、今度はルールを守って静かにビールを一杯。
ティファナでの濃密な5時間を思い返しながら、ようやく落ち着いた夜の風に身を委ねました。
境界線は、ただの線ではなかった
この日はどっと疲れたので、ゆっくり眠れました。笑
ティファナでの夜は、予定にもなかった“旅の濃さ”をプレゼントしてくれました。
文化、言語、法律、光と影、そして偶然出会った人々。そのすべてが数時間の中に詰まっていました。
国境を越えるとは、ただ物理的なラインを超えることではない。
自分の中の常識や感覚を揺さぶる“心の越境”でもあるのだと、強く実感しました。
次回は20代からのあこがれのビーチ「ハンティントンビーチ」の景色をお届けします。
この記事を書いた人

- 代表取締役
- 1985.11.09 滋賀⇄東京⇄滋賀
最近気になるのはChatGPT OpenAi関連… 生成Aiにはどう頑張っても勝てないのでもう考えることを辞めましたw
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