最近、旅行に行ける情勢でないので、「旅」というものを疑似体験したく、数年前に読んだカズオ・イシグロ著「日の名残り」を読み返すことにしました。
読もうと思っていた人はネタバレになってしまうので、できれば違う記事を読んでももらうほうが良いと思います。
本小説は「信頼できない語り手」という手法を用いて話が進んでいきます。
「信頼できない語り手(unreliable narrator)」とは文学研究の用語で、一人称視点で物語を展開するときの技法の一種だ。推理小説などで、証言者がわざとうそをつくことなどもこれに当たります。
「品格」とは
本小説の主人公であるスティーブンスは執事の仕事に就いています。
そこで「偉大な執事」とは何か?というものを自分なりに探求し、生業の中でそれを規則にそって遂行していく様が描かれていました。
自身の父が屋敷で亡くなる瞬間さえも、「偉大な執事」を自らが渇望するが故、「親子」としてではなく「執事」として自らが今やらなければならない仕事を優先させてしまいます。
ある日、屋敷の主であるファラディから旅行へ出かけてみては?と提案され、屋敷に来てから初めて自分が行ったことのないイギリス郊外へと旅に出掛けます。
イギリスの美しい田舎道をファディ様の愛車であるフォードを借りて旅をします。その道中でこれまでの執事としての自信に起こった事柄の情景を、田舎街の美しい風景とともに回想しながら話は進んでいきます。そこで理想に燃え、それに身を投じる。だがそれはどれほど確固たるものなのか。
一度は信じたものに、ひとは時に裏切られる。輝かしいはずの理想のメッキは、時に剥げる。そうなったときに、ひとはどうするか。
それでもなお保てる「品格」とはなんなのか。
最終日、夕方の桟橋にスティーブンスとある老人はベンチに座り、自身の過去を断片的にその老人に話ます。
しかし、そこで決定的に自分が今まで積み上げてきたものはひょっとしたら間違いだったことに気付かされるのです。
人として正しかったか
人間として自分探しに成功し、人間としての魅力を深めているような気がする。
執事とは人間性を捨てたところから始まるという既成の概念を利用しながらも、人間はどんなエライ人であれスティーブンスのような人間性を捨てた(隠した)と自覚した中に、人間性を自覚するものであると述べているようでもあるのです。
そして、スティーブンスの黒子の中にこそ彼が求めているのが、深い人間性普遍的なものを求めていく安堵感であることを感じるのです。
「伝統」と「文化」だけを重んじるのが必ずしも、人間として、執事としてのあるべき姿ではなかったことに気付いてしまった時、これまでの過去を悔やむよりも、これからどのように前を向いて生きていくか。という物言わぬメッセージが込められた非常に感慨深い作品です。
自分が行ってきたはことは正義だと信じ、決して間違ってなかった自負さえあったが、時代の流れに取り残されている自分にハッと気付かされる。
そんな切なさの情景を感じさせる最後です。現実社会を取り巻く環境でもこういう人居たらアドバイスしてあげましょう。きっとスティーブンスのように聞く耳を持つこともないと思いますが。笑
金持ちがどこまでいっても正義だと勘違いしている人などに読んでもらいたい一冊です。
それでは、このラストシーンに個人的にぴったりだと思うこの曲を。
“She’s a Jar”
wilco
※タップ(クリック)すると曲が流れます。
この記事を書いた人
- 1985.11.09 滋賀⇄東京⇄滋賀
最近気になるのはChatGPT OpenAi関連… 生成Aiにはどう頑張っても勝てないのでもう考えることを辞めましたw
▪趣味:旅行 ギター 読書 キャンプ 釣りとか…
7年前に始めたBLOGも600記事を超えました。
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