いまアメリカからこの記事を書いていますが先日、とても印象深いエピソードを知人から聞きました。
その方の奥様は「多発性硬化症(MS:Multiple Sclerosis)」という自己免疫疾患を患っておられ、その進行を抑えるために薬を服用していらっしゃいます。定期的に血液検査を行い、かかりつけの医師によるモニタリングも受けておられるとのことでした。
ところが、ある検査の結果で、いくつかの数値が異常値として現れました。医師は「今の段階では断定はできません。このまましばらく様子を見ましょう」と説明されたそうです。医学的には妥当な説明だったのかもしれませんが、奥様にとっては不安を募らせる結果になってしまいました。
帰宅後、彼女はネットで関連情報を調べ、肝臓がんや他の重篤な疾患の可能性に触れてしまい、不安はピークに達したといいます。そして、軽い鬱のような状態に陥ってしまいました。
このとき、彼女のご主人が取った行動がとても興味深いものでした。彼は最新の血液検査の結果一式をChatGPTに入力し、医療的な見解とアドバイスを求めたのです。
ChatGPTの“もうひとつの意見”が与えた安心感
AIが出力したのは、丁寧で誠実な文面のレポートでした。そこには、こう書かれていたそうです。
「いくつかの数値は基準値から外れていますが、肝臓がんなどの重篤な疾患であれば、さらに他の特定の数値も異常値になる傾向があり、それが見られないことから、現時点で重大な疾患である可能性は高くありません。まずは、食事療法と運動によって数値の改善を目指すのが適切です」
さらに、どのような食事が望ましいか、週単位で組まれたエクササイズの提案まで添えられていたとのことです。
「薬の副作用で一時的に数値が変動する可能性もあります。医師と相談のうえ、服薬量の調整を視野に入れても良いかもしれません」
これを読んだ奥様は、大変安心されたようです。そして、それまで落ち込んでいた心が次第に落ち着き、食事や運動にも前向きに取り組むようになったとおっしゃっていました。
AIが医師の代わりではなく“寄り添う存在”として
もちろん、AIが医師の診断や治療方針を決めるわけではありません。しかし、このケースのように、患者の不安に丁寧に寄り添い、情報を提供するという点では、AIが大きな役割を果たせると実感いたしました。
現実の医療現場では、患者一人あたりにかけられる時間はごく限られています。診察時間は5〜10分程度というのが一般的で、詳しい説明や心理的ケアまで手が回らないケースも多くあります。
その点、AIは時間の制約がありません。必要な情報を網羅的に提示し、個別に最適化されたアドバイスを提供することが可能です。しかも、それが低コストで実現できる点に、将来の医療にとっての希望を感じています。
AIを補助的に使うのではなく、最初からAIの存在を前提として設計されたサービスやシステムを意味します。
このエピソードは、まさにその一歩です。血液検査の結果をAIが読み取り、膨大な文献とデータをもとに、個別の患者に向けたレポートを生成する。これを基に、患者は安心し、前向きな行動を取ることができた。これは、医師の補助ツールとしてのAIではなく、医療体験そのものを変える新しい価値の提供だと感じます。
もちろん、最終的な判断は医師が行うべきですし、AIの情報を鵜呑みにすることにはリスクも伴います。それでも、精神的なサポートや「納得感」の提供という観点では、AIは非常に心強い存在になり得ると感じました。
人とAIが補完しあう医療の未来
AIは、医師に代わるものではありません。ですが、医師の隙間を埋める「寄り添う存在」として、今後ますます重要になると思います。
医療に限らず、あらゆる産業が「AIによって変わる」と言われて久しいですが、このような事例を通じて実感するのは、「AIによって人が人らしく働ける」という未来です。
そして何より、このエピソードを通じて感じたのは、「AIは、人の不安に寄り添うこともできる」という希望でした。
「あなたのためだけに書かれたレポート」が、たった数分で目の前に現れる。その力は、単なる情報提供を超えて、人の気持ちを救い上げる力すら持っているのです。
医療の現場に、こうした“もうひとつの声”があるだけで、世界は少しだけ優しくなる。そんな未来に、少しだけワクワクしています。
この記事を書いた人

- 代表取締役
- 1985.11.09 滋賀⇄東京⇄滋賀
最近気になるのはChatGPT OpenAi関連… 生成Aiにはどう頑張っても勝てないのでもう考えることを辞めましたw
▪趣味:旅行 ギター 読書 キャンプ 釣りとか…
9年前に始めたBLOGも750記事を超えました。
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