ロンドンからバスに揺られて北へ。目的地は、音楽の歴史が今も静かに息づく街──リヴァプールでした。
アフリカ大陸へ向かう長い旅の途中、ヨーロッパを経由するのであれば、どうしてもこの街に立ち寄っておきたかったのです。
言うまでもなく、この街はあの伝説的な4人組「ビートルズ」のふるさと。10代のころ、胸の奥に焼きついたメロディを思い出しながら、自分は静かにその地を踏みしめました。
到着したのは夕暮れ間近。空が茜色に染まる頃、煉瓦造りの建物とガラスの高層ビルが絶妙なバランスで並ぶ街並みに包まれ、リヴァプール独特の温度と色が肌に染みてきました。
キャヴァン・クラブで響く、生きた音の鼓動
最初に向かったのは「Cavern Club」。ビートルズが何百回もライブを行い、世界へと羽ばたいた伝説のクラブです。薄暗い地下へと続く階段を降りていくと、湿気混じりの空気とともに、かすかにブルースのギター音が漏れてきました。
レンガの壁、天井を低く這うアーチ型の梁、そして黒光りするステージ。現地ミュージシャンたちが奏でるロックンロールは、まるで過去と今とを繋ぎなおしてくれているように感じられました。
ギターのコードが響いた瞬間、身体の奥に眠る何かが目を覚まします。音楽は過去を思い出させる装置だというのは、こういうことなのでしょうか。
ビールを片手にその時間を噛みしめながら、ここでジョンやポールが若き日を過ごしたのだという事実に、なんとも言えない感情がこみ上げてきました。
ビートルズ・ストーリー──4人の記憶を歩く
続いて訪れたのは、アルバート・ドックにある「The Beatles Story」。ビートルズに関する膨大な資料と記録が詰まったミュージアムです。
展示室を歩くたびに、ステージ衣装、初期の楽器、レコードジャケット、さらにはファンからの手紙まで目に飛び込んできます。
ジョンの眼鏡、ポールのベース、リンゴのドラムセット。どれもが時代の一部であり、彼らが“現実にそこにいた”ことを物語っていました。
特に胸に残ったのは、世界各国から寄せられたビートルズへのメッセージ。
「あなたの音楽が、私の人生を救ってくれた」というような言葉。
誰かの人生に、音楽が深く関わっているということ。その偉大さに、改めて震えました。
ここでは自分自身も、長年抱えていた旅や仕事に対する価値観がふわりと変わるような、そんな瞬間を迎えました。デザインも、言葉も、何より人の心を動かすために存在していると、確信させられる空間だったのです。
街の空気と味──リヴァプールのフィッシュ&チップス
夜になると、リヴァプールの街はまた別の顔を見せます。にぎやかだった昼の喧騒が静まり、ネオンとストリートミュージックが、代わりに都市の体温を温めていました。
ふらっと立ち寄ったのが「Lobster Pot」というフィッシュ&チップスの人気店。赤と白のクラシックなボックスを受け取り、街角に座ってそのまま頬張ります。
カリッと揚がった白身魚に、モルトビネガーを軽くかけて──香ばしい香りが鼻を抜けた瞬間、口いっぱいに“本場の味”が広がります。芯のある塩味とじゃがいもの甘さがバランスよく響き、まさにイギリスが誇るソウルフードでした。
この街では、何を食べてもどこを歩いても、音楽が背景に流れている気がします。通りを歩くバスキングの音。パブの奥から聞こえてくるライブの音。そして自分の心に鳴っている、遠い記憶の音。
壁に残された影、そして余韻
ビートルズ・ストーリーのなかの一角に、モノクロ写真が一面に展示された壁がありました。ファンに囲まれる若き4人の姿、空港に到着した瞬間の喧騒、ステージ上での真剣な表情。
その壁の前に立ったとき、思わず「影を踏んでいる」と思いました。たとえば、ジョンの笑顔、ポールのしなやかなフォーム、リンゴのリズム、ジョージの沈黙。
彼らが遺したものは、写真の中だけにとどまらず、今この瞬間を生きる自分たちの姿の中にも紛れ込んでいるのかもしれません。
写真の一枚一枚を丁寧に見ながら、その場に流れていた「Yesterday」のアコースティックに、じっと耳を澄ませました。
時代の影を踏むとは、きっとこういうことなのだと、あらためて感じた時間でした。
ジョンが生前残そうとした「愛」
今思えば自分が初めて(15歳くらい)買った「本」はジョン・レノン特集のこの本でした。
そして次の物語へ──ダーバンへ向かう
名残惜しさを胸に、リヴァプールをあとにしました。
若きジョンと2ショット。
この街は、ただの観光地ではありません。音楽の記憶と魂が生きていて、訪れる人の感性を刺激し、心をそっと揺さぶる場所でした。
そしてこの旅は、次なる舞台へと向かいます。目的地は、南アフリカ・ダーバン。リヴァプールの余韻を携えながら、またひとつ新しい物語が始まります。
この記事を書いた人

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- 1985.11.09 滋賀⇄東京⇄滋賀
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