ベイルートの街角にある「Wooden Bakery」の看板が目に入ったとき、自分の五感がぱっと目を覚ました。
パンの焼ける香ばしい匂い。オーブンの奥で舞う火のゆらぎ。
粉とチーズとオリーブの香りが絶妙に混ざり合って、ただの朝食とは思えませんでした。
焼きたてのマヌーシェ(za’atarのスパイスが練り込まれたラップ)を頬張る。サクサクの生地にしっとりと絡むハーブオイル。
野菜の酸味とチーズの塩気が、喧騒のベイルートとは裏腹に、とても静かで穏やかな時間を生み出してました。
色と香りに誘われて。昼の食卓に集う、笑顔の旋律
昼になれば、再び香りが旅人の鼻先をくすぐる。訪れたのは、山間のレストラン。噴水の音と、風に揺れる葉のさざめきに包まれながら、大きな屋根の下でひとつの長い食卓を囲む。
運ばれてきたのは、これでもかというほどにボリューム満点のレバニーズプレート。チキンケバブ、ラム、キョフテ、そして表面が真っ赤に染まるようなスパイスパン。パセリと玉ねぎがたっぷりと散りばめられ、どれもが香ばしく焼かれてました。
少し戸惑いながら手に取ったのが、まるでタルタルのような生肉。おそらく羊。香草と唐辛子でしっかりと味付けされていて、驚くほどやわらかったです。ミントの葉と大根、唐辛子のコンビネーション。
一緒にいた若者たちも皆、笑っていた。食事は言葉を超えて人をつなげる。まさにそれを象徴するような昼のひとときでした。
化石に触れる。レバノンの地層に眠る1億年前の時間
午後は海沿いの町へ。ベイルートから車で北へ少し走った場所にある、化石博物館を訪れた。
薄暗い石造りの室内に一歩足を踏み入れると、目の前に並ぶのは、信じられないほど保存状態の良い古代魚や昆虫、植物の化石たち。彼らは、1億年以上前のレバノンの海に生きていた存在。
ガイドの男性が丁寧に説明をしてくれます。彼の手元のパンフレットには「Pierre’s Fossils」と記されてていました。まるで誇りを持って我が子を紹介するように、ひとつひとつの化石に語りかけるような姿勢が印象的でした。
中でも圧巻だったのは、メガロドンの歯の化石。手のひらを優に超えるその大きさと形に、かつての海がどれだけ巨大だったかを思い知られます。
化石とは、時間を抱えたまま今に存在している奇跡なのだと、しみじみ思いました。
ベイルートの街角で見つけた、静かなる瞑想の時間
翌日は、車に揺られて山を目指します。目指したのは「Barouk Cedar Forest」。そこはレバノン杉の森、まるで神話の中に迷い込んだような世界。
チケット売り場で簡単な説明を受け、中に足を踏み入れた瞬間、時間の流れが変わった気がした。木漏れ日が地面に円を描き、ふわっと杉の香りが鼻をくすぐります。
森の中に吸い込まれるように、音が消えていく。
ああ、都市の喧騒からずいぶんと遠ざかってきたんだな、と実感した。
その日の目的は、ここで「メディテーション」をすることだった。レバノン杉に囲まれて、ただ静かに、自分を置きます。
地面に腰を下ろすと、驚くほど冷たくて気持ちよかった。やわらかな苔と落ち葉のクッション。背筋を伸ばして目を閉じると、遠くの鳥のさえずりと、風が杉の枝を揺らす音だけが、耳に届けてくれます。
深く吸って、ゆっくり吐く。呼吸を意識していると、ふと胸の奥にしまい込んでいた雑音が、ひとつずつ消えていくのが分かりました。
思考がゆるやかにほどけていく感覚。ああ、自分はこんなにも、急いで生きていたのかもしれないな…なんて、ぼんやり思いました。
同じように輪になって座っていた仲間たちも、それぞれの呼吸に身を委ねていました。誰も何も言わない。でも、そこには確かに共有された静寂がありました。
杉の木々に守られるようにして、ただ「ある」ということを感じる。
15分のメディテーションが終わった後、誰もがゆっくりと目を開けて、何も言わずに微笑んでいた。心が整うって、こういうことなのかもしれません。
この国に「平穏」という名のリズムを聴いた
レバノンという国に、どんな印象を持っていただろう。内戦、宗教、政治……確かにそれらもこの国の現実ではある。でも、自分が感じたレバノンは、それだけじゃなかった。
笑顔が集う食卓。祖先が遺した化石の記憶。焼きたてのパンの香り。風に揺れるレバノン杉。言葉では伝えきれない「空気感」が、この土地には確かにありました。
旅とは、場所を移動することではない。感覚の窓を開けることだ。レバノンとベイルートで自分は、たくさんの窓を開けることができた。
次回は旧市街地からビーチサイドでの友達のバースデーパーティーの模様をお伝えします。
この記事を書いた人

- 代表取締役
- 1985.11.09 滋賀⇄東京⇄滋賀
最近気になるのはChatGPT OpenAi関連… 生成Aiにはどう頑張っても勝てないのでもう考えることを辞めましたw
▪趣味:旅行 ギター 読書 キャンプ 釣りとか…
9年前に始めたBLOGも750記事を超えました。
最新の投稿
TRIP2025-07-17ベイルートの朝はスパイスで目覚め、森の中でメディテーションで整う午後
TRIP2025-07-15遠回りの果てに出逢った、レバノンの夕暮れ 〜落書きに宿る叫び〜
TRIP2025-07-13ザンビアという名の宝箱を、そっと開けてみたら 〜 光の粒が語りかける希望〜
TRIP2025-07-11ザンビアの空の下で 〜ザンビアの街中で、静かで深いまなざしの午後〜