デリーでの日々は、嵐のようでした。
パハールガンジの夜に飲み込まれ、クトゥブ・ミナールの800年の静寂に触れ、インド門の三色の光を眺めた。

たった数日で、自分の中の何かが確実に書き換えられていました。 でも、インドに来た本当の目的は、まだこれからでした。 JCI India インド青年会議所の全国大会。
開催地はチェンナイ。あのGoogleのCEO、スンダー・ピチャイの地元です。
自分はJCI Japanのメンバーとして、この大会に招かれていました。
「WELCOME TAKASHI YAMANAKA」
チェンナイの空港に降り立った瞬間、空気が変わりました。
デリーの空気は乾いていて、埃っぽくて、どこか硬かった。チェンナイの空気は湿っている。

ぬるくて、柔らかくて、肌にまとわりつく。同じインドなのに、まるで別の国に来たような感覚でした。
到着ゲートを出ると、自分の名前を書いたボードを持った女性が立っていました。「WELCOME TAKASHI YAMANAKA」。ちゃんと迎えに来てくれている。

デリーでの初日に詐欺まがいの洗礼を受けた自分にとって、あのネームボードがどれだけ安心感を与えてくれたか。
荷物を乗せたカートの横で、思わず笑ってしまいました。

北インドと南インドは文化も言語も食事もまったく違うと聞いていました。デリーはヒンディー語圏、チェンナイはタミル語圏。でもみんな英語を喋ってました。
タミル語の文字は丸みを帯びた独特の曲線を持っていて、デザインを仕事にしている自分の目には、あの文字がとても美しく映りました。
ITC Grand Chola
大会会場は、チェンナイを代表する大型ホテルです。
ロビーに足を踏み入れた瞬間、スケールに圧倒されました。

天井が高い。柱が太い。どこを見てもインドの伝統的な意匠が施されていて、それでいて現代的な洗練がある。ここが3日間の舞台かと思うと、緊張と高揚が同時に押し寄せてきました。 参加証を受け取りました。

Takashi Yamanaka、JCI Japan。首からぶら下げた瞬間、自分がこの場にいることの実感が湧いてきました。赤いVIPバッジも渡されて、それを見た時は正直、少し戸惑いました。
これが現役最後かと。 でも考えてみれば、ここに来るまでに積み重ねてきたものがある。地方で会社を立ち上げて、一つひとつ仕事を重ねて、国を越えてここに立っている。それは誰かに与えられたものではなく、自分で選び取ってきた道の結果でした。
シェルワニを纏う
大会のガラパーティに向けて、インドの伝統衣装を仕立てることになりました。

チェンナイの衣料品店に連れて行ってもらい、シェルワニを選びました。紺色の生地に花柄の織り模様が入ったもの。金のボタンが縦に並んでいて、襟は立ち上がり式。

試着した時、鏡の中の自分が別人に見えました。 頭にはターバンを巻いてもらいました。ゴールドの布地に、宝石のようなブローチがついている。店員さんが器用に巻いてくれて、最後にピンで留める。サングラスをかけてポーズを取ったら、周りのスタッフが笑ってくれました。

日本人がインドの正装を着る。言葉にすると不思議な状況ですが、着てみると妙にしっくりきました。服は、その国の歴史そのものなのだと思います。何百年もかけて磨かれてきた形には、理屈を超えた説得力がある。デザイナーとして、その力に敬意を感じました。
ステージの上で
NATCONの3日間は、朝から夜まで止まることがありませんでした。 セッション、パネルディスカッション、ネットワーキング。インド各地から集まったメンバーたちの熱量は、日本の大会とは別次元でした。声が大きい。ジェスチャーが大きい。

議論が始まると、遠慮という概念が存在しない。自分の意見をぶつけ合って、そこから何かを生み出そうとする。 ガラパーティの夜、ステージに上がる機会をいただきました。 シェルワニを着て、ターバンを巻いて、ライトの中に立つ。

記念のメダルを受け取った瞬間、ステージの照明がピンクや黄色に輝いていて、会場からは歓声が上がっていました。隣に立つ各国のメンバーたちも、それぞれの国の伝統衣装を纏っている。 あの光景を、自分は忘れないと思います。
夜のチェンナイで思ったこと
大会が終わった夜、ホテルの部屋で一人になりました。 シェルワニを脱いで、ターバンを外して、いつものTシャツに着替えた。鏡を見ると、さっきまでステージにいた人間と同じ顔がそこにありました。

でも、何かが違う。目の奥に、数日前にはなかった光がある気がしました。 インドに来る前、自分は自分の仕事のことばかり考えていました。売上のこと、新規事業のこと、クライアントのこと。どれも大事なことです。今もそれは変わりません。

でも、この国で見たものは、そういう枠の外にあるものでした。 13億の人が暮らす大地。言葉が通じなくても笑い合える人たち。何百年も受け継がれてきた衣装の重み。

朝から晩まで議論し続ける若い経営者たちの熱量。 自分が長浜でやっていることは、この巨大な世界のほんの一点に過ぎない。でも、その一点に全力を注ぐことの意味を、ここに来て改めて感じました。
チェンナイの夜は、デリーより静かでした。窓の外からは、遠くでクラクションの音がかすかに聞こえるだけ。 インド編、もう少しだけ続きます。
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