モンテゴベイで過ごした濃密な時間を終え、夕刻の光が淡く消えはじめたころ、私たちはキングストンへ戻る車へと乗り込みました。

空の色は刻一刻と変化し、夕陽の朱が残る地平線は、やがて深い群青へと沈んでいきました。高速道路に入るころには周囲はすっかり闇に包まれ、ヘッドライトの光だけが道をすくい上げるように前へ伸びていました。
バックミラー越しには、モンテゴベイの海沿いで感じた柔らかな潮風の記憶がまだ残っていて、対照的にキングストンへ近づくほどに街の熱気が重なり、空気が厚みを増していくのがわかりました。

キングストンの夜は、昼の重たい熱とはまた違う、湿度を含んだ甘い香りが漂い、誰もがその空気に身を預けながら夜を生きているようでした。
そんな中、現地メンバーが微笑みながら言いました。

「今夜は特別な場所へ行きましょう。本場のレゲエを、あなたに体験してもらいたい」
その一言に胸が高鳴り、疲れがふっと消えていくような気がしていました。
疾走するギターと魂の歌声に包まれた、生バンドの夜
連れてこられた場所は、観光客向けではなく、地元の人々が集う“リアルな夜”でした。
入口に近づくと、すでに低音が地面を震わせ、建物の壁に当たって跳ね返り、体の内側へと響き渡っていました。

扉を開いた瞬間、熱気が一気に押し寄せました。
ステージにはギタリスト、ベーシスト、ドラマー、サックス奏者、ボーカルたちが横一列に並び、まるで呼吸するように音を紡いでいました。
ライトが照らす彼らの額には汗が光り、その一滴一滴が、この国の歴史と魂の延長線上にあるように見えました。

演奏が始まると、会場は爆発したように歓声に包まれ、人々は自然と体を揺らし、肩を組み、笑い声と歌声が重なりました。
レゲエは“耳で聴くもの”ではなく、改めて“その場で生きるもの”なのだと強く感じました。
音が跳ね、人が跳ね、会場そのものが巨大な生命体になっていくようで、私自身もその一部になっていきました。

外へ出ると、夜風が熱くなった体を冷ましてくれていました。壁にはレゲエカルチャーを象徴するグラフィティが描かれ、闇の中でも強い存在感を放っていました。
キングストンの夜は、音楽が空気のように漂い、人々の生活の中に脈々と息づいていました。
雨に煙るキングストンと、ボブ・マーリー博物館への道
翌朝、ジャマイカには珍しい柔らかな雨が降っていました。
窓の外を眺めると、アスファルトの上にできた水たまりに街の色が滲み、車のタイヤが雨粒を跳ね上げる音が静かに響いていました。

そのしっとりとした空気の中、私たちはボブ・マーリー博物館へ向かいました。
門の前に立つと、レゲエカラーの壁画と、力強いマーリーの肖像が視界いっぱいに広がり、胸の奥がじんわりと温かくなりました。

門をくぐると、ラスタカラーの帽子をかぶった男性がゆったりと腰掛け、煙草のようなものをくゆらせていました。

その姿は、この場所がただの展示施設ではなく、ボブ・マーリーという存在が今もなお息づく“文化の現場”であることを静かに語っていました。

館内には、彼が生きた時間をそのまま封じ込めたような展示が並んでいました。

ギター、レコード、衣装、写真、そして彼が若い頃に書いたメモには、まだ形になりきれていない理想や葛藤、祈りのような言葉が散りばめられていました。

雨音が屋根を叩くそのリズムでさえ、ボブ・マーリーの楽曲の一部のように思えてしまうほど、空間そのものに“音”が流れていました。

ミュージアムショップには色鮮やかなTシャツやポスターが並び、 僕はその中から旅の記憶として一枚のTシャツを選びました。

別れの握手に込められた、次の旅への鼓動
そして翌朝。
メキシコへ向かうためのフライトに合わせ、ロビーへと降りていきました。
そのとき、扉の向こうから見覚えのある笑顔が現れました。
JCIジャマイカのプレジデントが、自ら空港まで送るためにわざわざ迎えに来てくださったのです。

車内ではこれまでの数日間を振り返りながら、文化の話、未来の話、そして互いの国がどのように歩みをつなげていけるのかを語り合いました。
キングストンの街並みが流れていく中で、旅はただ“移動すること”ではなく、“出会った人によって深まるもの”なのだと強く感じていました。

空港に到着し、車から降りたとき、彼は力強く手を差し伸べてくれました。
その握手には、別れの寂しさと、また必ず会おうという温かい約束のような想いが込められていました。

ゲートへ向かう途中、ふと振り返ると、ジャマイカの青い空が大きく広がり、その光が私の背中を押してくれているように感じました。

音楽、文化、人々の笑顔——ジャマイカで過ごしたすべての瞬間が、自分の旅路をより深く、より豊かにしてくれていました。

その余韻を胸に抱きながら、次の目的地であるメキシコへ向かいました。
この記事を書いた人

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- 1985.11.09 滋賀⇄東京⇄滋賀
最近気になるのはChatGPT OpenAi関連… 生成Aiにはどう頑張っても勝てないのでもう考えることを辞めましたw
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