レイキャビクとゴールデンサークルをめぐった一日目を終え、いよいよアイスランドの南海岸へと走り出しました。
ここからが、反時計回りの一周の本番です。
巨大な滝、黒い砂浜、ビーチに打ち付けられる氷河の塊。

南海岸は、アイスランドのなかでも特に見どころが密集している区間で、車を少し走らせるたびに、まったく違う絶景が次から次へと現れます。
ハンドルを握る手にも、自然と力がこもりました。

そして今回の旅は、振り返ってみれば、まさに奇跡の連続でした。
大自然のスケールに圧倒され、思いがけない人の優しさに救われ、初めての味に驚かされる。その一つひとつを、順を追って書いていきます。
水のカーテンの裏側へ
まず向かったのは、セリャラントスフォスという滝でした。
高さ六十メートルの崖から、一本の水の柱が落ちてくる。
この滝のすごいところは、なんと裏側まで回り込めること。

滝の裏の岩棚を歩くと、目の前を分厚い水のカーテンが轟音とともに流れ落ち、その向こうに、アイスランドの広大な平原が透けて見えるのです。

当然、あたりは水しぶきでびしょ濡れになります。
まわりの人たちは、みんなゴアテックスのような最新の高性能レインウェアで、完全装備。

そんななか、自分ひとりだけは、バブアーのオイルドコットンで挑みました。古くから使われてきた、蝋を引いた綿のジャケットです。
正直、少し不安もありました。けれど結果は、まったく問題なし。たっぷりと水を浴びても、オイルドコットンはしっかりと弾いてくれて、最後まで快適に歩けたのです。

最新の素材(GORE-TEX等)も素晴らしいけれど、長く受け継がれてきた道具には、それなりの理由があるのだと、あらためて実感しました。

この日は天気もよく、虹がかかってました。
轟音に、打たれにいく
次に向かったのは、スコゥガフォス。
幅二十五メートル、落差六十メートルの、堂々たる一枚の滝です。滝つぼに近づくほど、地面が震え、霧のような水しぶきが全身を包みます。

晴れた日には、その霧に虹がかかることでも知られています。
この日は3重にかかった虹を見ることができました。

滝の脇には、てっぺんまで続く長い階段があります。
息を切らして登りきると、眼下には、緑の谷と、うねるように流れる川。

アイスランドの大地が、どこまでも続いていました。滝は下から見上げても、上から見下ろしても、まるで違う顔を見せてくれます。

黒い砂と、六角形の岩
海沿いに出ると、砂浜が真っ黒でした。レイニスフィヤラ。

火山の島ならではの、黒い溶岩が砕けてできた砂の浜です。

沖には、トロールが船を引いていて夜明けに石になった、という伝説の残る尖った奇岩がそびえ、荒々しい白波が絶え間なく打ち寄せていました。

浜の奥には、見事な六角形の柱が、びっしりと並んだ崖がありました。
溶岩がゆっくりと冷え固まるときにできる、柱状節理という造形です。

まるで巨大なパイプオルガンのよう。レイキャビクで見たあの大きな教会も、この自然の柱を模してつくられたのだと、ここでようやく腑に落ちました。

大地が刻んだ、迷路
さらに東へ進むと、大地そのものが裂けたような峡谷が現れました。フィヤズラゥルグリューフール。

百メートル近い苔むした断崖のあいだを、川が蛇行しながら刻んでいく。

二百万年もの歳月をかけて、水が少しずつ削り出した造形だそうです。
人間の一生など、ほんの一瞬なのだと、こういう景色の前では思い知らされます。
黒い渚の、宝石
そしてこの日のクライマックスが、ダイヤモンドビーチでした。
近くのヨークルスアゥルロゥンという氷河湖から流れ出た氷のかけらが、波に磨かれて、黒い砂浜に打ち上げられる。

透き通った氷が、まるで宝石のように黒い砂の上で輝いているのです。
両手で抱えてみると、何百年も前に降った雪が、いまこうして自分の手のなかにある。その事実に、思わず笑みがこぼれました。

大きいものは人の頭ほど、小さいものは氷砂糖のよう。
一つとして同じ形はなく、波が寄せるたびに、きらきらと光を変えていきます。いつまで眺めていても、飽きることがありませんでした。

この氷のふるさとは、ヨーロッパ最大の氷河ヴァトナヨークトル。気の遠くなるような時間をかけて圧し固められた雪が、ゆっくりと海へ下り、最後にこの渚で溶けて消えていく。美しいだけでなく、どこか切ない景色でもありました。

ヨーグルトではない、スキル
旅のあいだ、すっかりはまってしまった食べものがあります。スキルです。
見た目も食感もヨーグルトそっくりなのですが、実は分類上はクリームチーズの仲間なのだそうです。アイスランドで千年以上も作られてきた、伝統的な乳製品。さっぱりとしているのに濃厚で、たんぱく質もたっぷり。

ブルーベリーやラズベリーの入ったものを、車のなかでスプーンですくって頬張る。
これが、長い運転の合間の、何よりの楽しみになりました。本当に美味しくて、毎日のように買い足していたほどです。
鉄板を囲む、夜
夜は、その日たどり着いたキャンプ場で、自炊をします。
日本から持ち込んだ大鍋にパスタを山ほど茹で、例の鉄板で肉を焼く。

屋根のある炊事場を借りて作る食事は、何ものにも代えがたい時間でした。


シンプルなオリーブオイルのパスタと、こんがり焼けたラム肉。
一日じゅう絶景を歩きまわって、くたくたになった体に、この素朴な食事がどれほど沁みたことか。
豪華な料理ではないけれど、作りあげた一皿には、何ものにも代えがたい満足がありました。
パンク、そして奇跡
けれど、旅はいいことばかりではありません。
未舗装の砂利道を走っていると、突然レンタカーのタイヤがパンクしてしまいました。あたりは見渡すかぎりの荒野で、街もガソリンスタンドも、どこにも見当たりません。

レンタカー会社にコンタクトを取りましたが、「ロードサービスはアイスランドでは保険適用外」。とのこと。実費で呼ぶとなると僻地なので日本円で20万ほどかかると言われ、来てくれるまでにも半日程度かかると言われ、絶望の淵に立たされました。

今回ばかりは正直、もうダメかもしれない、と流石に諦めかけました。
ところが、すぐ近くに、小さなキャンプ場があったのです。

藁をもつかむ思いで飛び込むと、そこにいた地元の方が、それはもう親身になって助けてくれました。

作業小屋にタイヤを運び込み、専用の道具を使って、手際よく直してくれたのです。

壁にはアイスランドの国旗。トラクターや農機具に囲まれた、その土地で生きる人の工房でした。

見ず知らずの、言葉もろくに通じない旅人に、ここまでしてくれる。
その優しさが、本当に、心の底から嬉しかった。お礼の言葉だけでは足りないくらい、感謝しています。

パンクという最悪の出来事の、すぐ隣にキャンプ場があり、親切な人がいた。
これを奇跡と呼ばずに、何と呼べばいいのか。

旅の本当の豊かさは、絶景の数と、こういう人との出会いの中にこそあるのだと、しみじみ思いました。
親切と、絶景と
直してもらったタイヤで、走り出します。
その日のキャンプ場に車を停め、星も出ない明るい夜のなかで、今日一日を振り返る。

巨大な滝、黒い砂、宝石のような氷、足元のつくし、そして、見知らぬ人の優しさ。あまりにも多くのものを、この一日で受け取りました。

南海岸は、まだ序章にすぎません。
この先、車はいよいよ人の少ない東の果てへと向かい、果てしない溶岩台地と、氷河の懐へと分け入っていきます。

奇跡の連続だったアイスランド一周記、第三回へと続きます。
この記事を書いた人

- 代表取締役
- 株式会社FIRST MADE代表取締役。
Webブランディング10年を経て、2026年に中小企業向けAIエージェント事業「FIRST INTELLIGENCE」を立ち上げ。
自社でも15名のAIエージェントを日々の業務に運用し、実体験に基づくAI導入支援を行っています。
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