ヒロのしっとりとした雨が、ジープのフロントガラスを叩く。 そんなノスタルジックな余韻を振り払うように、自分はアクセルを力強く踏み込みました。 目指すは島の反対側、太陽が支配する街、コナ。

ハワイ島を横断するこのルートは、単なる移動以上の意味を持っています。 標高が上がるにつれ、熱帯の緑は姿を消し、代わって現れたのは火星のような荒涼とした大地と、手が届きそうなほど低い雲。 自分を乗せたジープは、まるで重力から解き放たれるように、天空の回廊へと吸い込まれていきました。
雲を突き抜け、漆黒の回廊をジープで駆ける――標高の高い山に見る「世界の輪郭」
数時間のドライブ。高度を稼ぐごとに、空気の密度が変わっていくのがわかります。

ふと車を停めて外に踏み出すと、そこには言葉を失うほどの「透明な静寂」が広がっていました。 標高の高い山あいを吹き抜ける風。それは、不純物をすべて削ぎ落としたような、鋭いほどに澄み渡った空気。 スンバラシい、という言葉が自然と口をついて出るほど、その空気の澄み方は異常なほどでした。 見上げる空は、紺碧を通り越して宇宙の入り口を予感させるほどに深く、眼下にはさっきまで自分がいた世界が雲海に沈んでいる。

視界の端から端まで、遮るものは何もない。あるのは、悠久の時間をかけて形作られた大地のうねりと、それを照らす無慈悲なまでに美しい太陽の光だけ。

ジープのハンドルを握る手に、再び力を込める。 山を降りるにつれて、気温はぐんぐんと上がり、景色は漆黒の溶岩から鮮やかな街の色へと塗り替えられていきました。

ようやくコナの街へ辿り着くと、港には巨大なフェリーが優雅に羽を休め、自分を歓迎してくれているようでした。 ヒロの静謐とはまた違う、どこか開放的で、エネルギッシュなコナの鼓動。 旅の第二幕は、ここからまた新しく動き始める。

蒼き深淵の対話、瞳に映る自分。
コナでのメインイベントは、何と言っても海との対話。

自分はシュノーケリングセットを抱え、迷わずその蒼い境界線の中へと飛び込みました。

水面に顔をつけた瞬間、耳に届くのは自分の鼓動と、波がサンゴを撫でる微かな音だけ。 そこには、重力からも、時間からも、そして言葉からも解放された「完全なる沈黙」の世界が広がっていました。

目の前を横切る、極彩色の魚たちの群れ。 彼らの動きに無駄はなく、ただその瞬間を生きるためだけにヒレを動かしている。 その美しさに息を呑んでいると、深い青の向こうから、一際大きな影がゆったりと近づいてきました。
「……ホヌ」

ハワイで聖なる生き物として愛されるウミガメが、すぐそばまでやってきたんです。 彼(あるいは彼女)の動きは、驚くほど優雅で、それでいて力強い。

なんと、そのまま一緒に泳ぐことができました。自分はそっと、そのリズムに合わせるように体を預けました。 人間としての自意識が薄れ、自分もまた、この広大な海の一部であるような感覚に包まれていく。 ホヌの澄んだ瞳が、こちらをじっと見つめている気がしました。

海の中で過ごす時間は、まさに「心のデトックス」そのものです。 書き手として、日々言葉を吐き出し続ける自分にとって、こういう「言葉の通じない世界」に浸る時間は、何物にも代えがたい養分になる。

水面に顔を上げれば、眩しいほどの太陽と、仲間の笑い声。 でも、自分の胸の奥には、さっきまで海中で共有したあの静かな祈りのような時間が、確かな重みを持って残っていました。

一度こうして全てをリセットする時間が必要なんだ。 効率化された社会で生きるからこそ、あえて不便で広大な自然の懐に飛び込む。 その矛盾の中にこそ、本当のクリエイティビティが隠されている気がしてならない。
潮風が撫でるコナの旧市街、時を止めた屋根の下で。――呼吸を整え、次の物語へと歩み出す
海から上がり、潮風に髪をなびかせながら、自分はコナの旧市街へと歩みを進めました。 そこには、ヒロのノスタルジーとはまた違う、陽光に愛された街の息遣いがありました。 まず目に飛び込んできたのは、歴史の風格を漂わせる「フリヘエ宮殿」を思わせる古い石造りの建物です。

かつての王族たちが過ごしたというその場所は、今も静かに海の向こうを見つめ続けている。 その前を歩く人々の足取りは、どこまでもゆっくりで、まるで時間が溶けてしまったかのようでした。

街の至る所には、遊び心溢れるデコレーションが溢れています。 軒先に吊るされた、木彫りの魚たちのオーナメント。 色とりどりのペイントが施されたショップの壁面。

そんな街並みを眺めながら歩いていると、堤防で釣りに興じる一人の少年に出会いました。 彼の手元には、小さな獲物が。

その誇らしげで、けれどどこか照れくさそうな横顔を見ていると、自分も子供の頃に感じた「未知の世界を釣り上げる興奮」を思い出さずにはいられませんでした。
ふと横を見れば、パラソルの下で深い眠りに落ちている男性の姿も。

この街では、働くことも、休むことも、そして遊ぶことも、すべてが同じ価値を持っている。 「 Queen Liliuokalani Canoe Race 」の青いバナーが揺れる港では、多くの人々が集まり、この島の伝統と今を祝福していました。

コナの旧市街を歩く。 それは、重なり合う歴史の層に触れながら、自分の立ち位置を確かめる作業でもありました。 メキシコの情熱、サンフランシスコの霧、オアフの疾走感、そしてハワイ島の鼓動。 旅の断片が、このコナの穏やかな夕暮れの中で、一つの物語として編み上げられていく。
「自分はこれから、どんな言葉を綴っていこうか。」

オレンジ色に染まり始めた空を見上げながら、そんなことを考えました。 便利になった世界で、自分は何のために「書く」のか。

コナの潮騒に包まれながら、自分は再びキーボードに向かいます。 この旅の締めくくり。
この記事を書いた人

- 代表取締役
- 1985.11.09 滋賀⇄東京⇄滋賀
最近気になるのはChatGPT OpenAi関連… 生成Aiにはどう頑張っても勝てないのでもう考えることを辞めましたw
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